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最高裁判所第二小法廷 昭和22年(れ)295号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人高橋武夫の上告趣意書第一點は「原判決は事実理由第一に於て「昭和二十二年七月五日頃法定の除外事由がないのに營利の目的で肩書住居で政府以外の青木敏和に對し自己の生産に係る検査證印のない昭和二十一年度産粳玄米二斗(約三十瓩)を所定の販賣價格を超過し代金三千二百圓(超過額三千百六圓三十二銭五厘)で販賣し」と認定し此の價格違反の點に付て物價統制令第三條第四條第三十二條物價廳告示第百五十一號に該當するものと斷じた然るに右引用の物價統制令第三十二條は既に削除せられて居るから此の條文を適用したことは明に違法である從て原判決は此の點に於て破毀を免れないと信ずる」と謂うにある。

仍って原判決の適條の項を看ると成る程所論の通り物價統制令第三十二條と書かれてあり、而して此の第三十二條は昭和二十一年勅令第三百八十二號(施行昭和二十一年八月十二日)に依り改正削除された法條であることも亦論旨指摘の通りである。然し同條は以上の如く本件事犯前既に削除消滅に歸した法條であり且つ削除前の同條は單に「本令の施行に關する主務大臣は大蔵大臣とす」との規定であって、斯かる規定は原判決の適條に絶對に必要のない規定であることは論を俟たない所であるから、這は同令第三十三條の誤記と認むむべきことは極めて明確である。本論旨は理由がない。

同第三點は「原審公判調書を閲するに原審は公判に於て押収品(棒一本)を被告人に示した事跡がないされば原判決は刑事訴訟法第三百四十一條に違反する違反があって此の點に於ても破毀は免れない」と謂うにある。然し、裁判所は刑事訴訟法第三百四十二條のような特別の規定に該當する場合は別として、その他の場合に於ては自由に證據調の限度を定めることが出來るのであって、集取されてある一切の證據に付て其の取調をしなければならないものでなはい。記録に依れば、原審に於て裁判長が被告人に對し押収品の棒(證第一號)を示した形跡がないことは所論の通りであるが、右押収品が刑事訴訟法第三百四十二條所定の證據物でないことは記録上明白であるから、原審が之に付て證據調をしなかったとしても少しも違法ではない。殊に原判決は右の棒を證據として採用してゐないのであるから、之に付て證據調がしてなくても適法な取調を經ない證據に據って事実を認定した違法がある譯でもない。論旨は理由がない。(その他の上告論旨及び判決理由は省略する。)

以上の理由に依り刑事訴訟法第四百四十六條に則り主文の通りに判決する。

此の判決は裁判官全員の一致した意見に依るものである。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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